これまでもこれからも、様々な表現者が集まる自由な街~歌舞伎町。
日本最初の「トーク」ライブハウスは、その記憶と残像と未来をリアルに感じる場所。

 新宿の片隅で営んでいたライブハウス「ロフトプラスワン」が歌舞伎町に移転したのは1998年のことだった。日本初のトーク専門のライブハウスとして95年にオープンした当初は全くお客さんの来ない日もあったが、タブーなき言論空間としてサブカル、政治、エロ、オタクなどあらゆるジャンルのトークライブを日夜繰り広げているうちに、その存在は徐々に口コミで広がり、「新宿サブカル御殿(中森明夫)」「オタクの聖地(唐沢俊一)」「乱闘酒場(鈴木邦男)」など様々なキャッチフレーズで呼ばれるようになっていた。特にオープン当初、あらゆるジャンルの有象無象が入り混じった混沌とした空間は、当時から出演していたリリー・フランキー氏から「文化のドブさらい」とまで言われていた。そのロフトプラスワンが、あらゆる人間の夢と欲望が渦巻く、アジア一の歓楽街・歌舞伎町に移転したのは、ある意味必然的な流れだったのかもしれない。

 98年当時の世紀末ムード漂う歌舞伎町の街には、象徴的な存在だったコマ劇場が連日、北島三郎ショーなどの公演を打ち、昼間は地方から多くのツアー客が訪れる一方、夜になるとコマ劇の裏に退廃的な若者達が行くあてなく漂う光景があった。その隣の林ビルの地下2階には老舗レゲエクラブの「キングストンクラブ」があり(さらにさかのぼるとそこには「木馬」というジャズ喫茶があった)、その跡地にロフトプラスワンが入ったのだ。周辺には名曲喫茶「スカラ座」や歌声喫茶「カチューシャ」もまだ健在だった。戦後の闇市から始まったという歌舞伎町は、演劇、ジャズ、フーテン、全共闘、ディスコ、ギャングなど、若者文化の変遷を辿ってきたが、その刺激的な場所に自分が足を踏み入れたことに当時興奮したことを今でも憶えている。

 移転後のロフトプラスワンは、それまで50人も入ればいっぱいだったキャパシティが一気に150人に増え、コマ劇場の隣という地の利もあって少しずつ知名度を上げていった。とはいえ、アンダーグラウンドな雰囲気は相変わらずで、むしろ今まで知る人ぞ知る存在だったものに光が当たることで、その陰影がよりくっきりと浮かび上がる感があった。特にエロのジャンルについては、歌舞伎町という日本一の風俗街に来たことの効果は絶大だった。当時2大風俗誌と言われていたMANZOKUとナイタイがそれぞれ冠イベントを打ち、人気ナンバーワン風俗嬢とお客さんが野球拳をして盛り上がる光景を見ながら、人間って素晴らしいって思ったものだ(笑)。

 私は常々サブカルチャーにとってエロと政治は欠かせないと思っているのだが、政治・社会問題をテーマにしたイベントもロフトプラスワンでは数多く開催されている。常連出演者である社会学者の宮台真司氏は、テレクラでフィールドワークを行い(当時、歌舞伎町にはいたる所にテレクラがあった)、コギャルに代表される世紀末の若者文化を「終わりなき日常」というキーワードで分析した。ヘアヌードの仕掛け人と言われた高須基仁氏もプラスワンの常連出演者だった。高須氏は残念ながら昨年病気のため亡くなってしまったが、彼が主催する「熟女クイーンコンテスト」はプラスワンの名物イベントとして実に25回行われ、出演した熟女女優はのべ200名近くに及んだ。高須氏は、毎年10月21日にこのイベントを開催することにこだわっていた。なぜなら、この日は国際反戦デーとして1968年には新宿騒乱があり、翌69年には高須氏自ら防衛庁に突入して逮捕された日でもあったからだ。学生時代は全共闘運動に身を投じていた高須基仁氏はイベントの最後に必ず「平和な世の中だからこそこうしたイベントが開催できる。テロよりエロ、戦争より平和!」と演説をぶっていた。

 ロフトプラスワンが歌舞伎町に移ってから22年になるが、その間、様々な出来事があった。世間を騒がせたロス疑惑で収監されていた三浦和義氏が出所後初のイベントを開いたこともあれば、映画「靖国」の上映会に全国から右翼団体が集まったことも(その時は緊張感しかなかったが)今となっては思い出深い。故・若松孝二監督が映画「三島由紀夫と若者たち」の撮影を店で行ったこともあった。ロフトプラスワンが毎日毎晩エキサイティングなイベントを開催できるのは、歌舞伎町という街の持つ熱気に当てられているからだと思うことが時々ある。コマ劇もスカラ座もカチューシャも今はなくなってしまったが、そこに多くの人達が集い、同じ時間を共有していたという事実、その記憶と残像はいまもここでリアルに感じることができる。歌舞伎町に来るというのは、その歴史の一部を生きることでもあると思うのだ。歌舞伎町へよォーこそ。

(文:加藤梅造/ロフトプロジェクト代表)


LOFT/PLUS ONE ロフトプラスワン

[電話] 03-3205-6864
[住所] 新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2
[営業] ライブにより変動

新宿情報発信基地。1995年、日本最初のトークライブハウスとして オープン。硬軟取り混ぜたあらゆるジャンルのトークライブを毎晩開催中。 収容人数 150人




新宿 LOFT Zirco Tokyo
03-5272-0382
[住所]歌舞伎町1-12-9 タテハナビルB2
[営業時間]ライブにより変動
"ROCKIN'COMMUNICATION" 言わずもがな、1976年より新宿でロックシーンを見続けてきた老舗ライブハウス
03-6278-9190
[住所]歌舞伎町1丁目2-5 東陽ビルB2F
[営業時間]各公演の開催時間に準ずる
新宿区役所の目の前にある最新設備のライブハウスです。 広々としたBARラウンジに完全分煙ながら広い喫煙所も設置。
新宿 BLAZE 新宿 RUIDO K4
03-5155-5990
[住所]歌舞伎町1-21-7 新宿アネックス B2F
[営業時間]イベントごとによる
アイドル、ビジュアル系、ほかオールジャンルの音楽が楽しめる歌舞伎町で最大のライブハウス。
03-5292-5125
[住所]歌舞伎町1-2-13 新光ビルB2F
[営業時間]13:00 - 22:00
ルイードの伝統を継承しつつ、次世代に向うライブハウスとして、上質のエンタテイメントを提供。
Marble 新宿 ACB HALL
03-5272-3558
[住所]歌舞伎町2-45-2 新宿ジャストビルB1F
[営業時間]14:00 - 22:00
音楽、お笑い、アートなど、様々な、自由な表現が集う非日常的な場所。
03-3205-0901
[住所]歌舞伎町2-36-3 アシベ会館B2
[営業時間]不定期 / 開催ごと
数多くの有名アーティストを輩出し続けてきた。2018年に50周年を迎えた老舗ライブハウス。